教員紹介

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𠮷川 一朗

(よしかわ いちろう/教授/基盤科学研究系)

複雑理工学専攻/複雑系実験講座/巨視的複雑系分野

略歴

平成6年1994年3月 東京大学理学部地球物理学科卒業
平成8年1996年3月 東京大学大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻 修士課程修了
平成10年1998年3月 東京大学大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻 博士課程中退
平成10年1998年4月 宇宙科学研究所(現 宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所) 助手
平成17年2005年4月 東京大学大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻 助教授(准教授)
平成27年2015年1月より現職

教育活動

大学院:
理学系研究科
地球惑星科学専攻 惑星大気学
地球惑星科学専攻 惑星探査学
地球惑星物理学科 地球惑星物理学
大学院新領域創成科学研究科:(未定)
駒場全学ゼミナール:極限的プラズマの世界―核融合から宇宙まで―

研究活動

地球プラズマ圏の撮像(文献1,2,3)

1990年代後半に惑星周辺の電離大気(プラズマ)を可視化する研究を始め、プラズマが散乱するEUVを捉えることによって地球のプラズマ圏を撮像した。
2000年初頭に地球プラズマ圏の撮像に世界で最初に成功し、その後、月探査衛星「かぐや」によって、地球の極域から吹き上がるプラズマの撮像という新しい切り口で研究を展開し、NASAをはじめとする他の研究グループの追随を振り切ってきた。
月探査衛星「かぐや」は地球超高層プラズマイメージャを搭載し、月の周回軌道から可視光と極端紫外光(EUV)の2つの波長域で地球と月の観測を行った。その結果、地球プラズマ圏の撮像のほかに、以下の二つの成果を得た。
(1-1) 月のナトリウム大気の起源に関する決定的な観測証拠(関連論文 A39,40)
月の大気は、外界との相互作用により月の表層から放出されたもので、月の土壌成分であるナトリウム、カリウムやカルシウムが主成分である。地上の望遠鏡から大気光の強度を計測するとナトリウムが最も多い。大気生成メカニズムに関する論争は長い間続いていたが、私たちは太陽風密度の変動に伴うナトリウム大気光の増減を見つけ、太陽風によるスパッタリングが最も効率的な大気生成メカニズムであると結論した。この結果は、小天体の大気や、固体惑星とプラズマとの相互作用を研究する分野を刺激する観測証拠である。
(1-2) 極端紫外星の観測 (関連論文A1, A21, A37, B24)
EUV波長域の天文観測の意義はdiffuse EUVの起源を同定することである。つまり、diffuse EUVの起源が個々の暗い極端紫外星なのか、それとも高温星間ガス(温度10万度K)であるのか、という長年の謎を解明することである。
私はEUV望遠鏡で、地球の電離圏・プラズマ圏からの光の混入を受けない月の周回軌道から、数百の極端紫外星の観測に成功した。EUV波長域では銀河中心まで見えないので、観測可能距離にある極端紫外星の分布は統計的に一様に見えるはずだが、我々の観測結果では偏りのある分布が確認された。これが、分布に偏りがあるとされているdiffuse EUVの起源と考えることもできる。この問題は、欧州の天文衛星Extereme UltraViolet Exploreでは、ジオコロナの光の混入により暗い極端紫外星まで同定することはできず、解決には至らなかった。diffuse EUVの起源の同定には惑星間空間からのEUV観測が重要なのである。月探査衛星「かぐや」で私はそれを実現し、その有効性を確認した。次期月探査計画において大規模な天文観測を計画しているロシアと協力し、研究をさらに進める。

(2) 惑星探査計画への参画 (文献4,5,6)
宇宙航空研究開発機構(JAXA)とヨーロッパ宇宙開発機構(ESA)が共同で進める国際水星探査計画の中で、プラズマ・大気光分光撮像器の開発総括を務める。
計測器は2015年現在、最終開発段階にあり、観測データは2020年に得られる。水星の大気成分は、月との類似性からアルカリ金属であろうという推論が過去20年以上続いているが、この計測器により論争に終止符を打つことができるであろう。
これは、水星のもつ重いコアや小天体の大気生成の謎にも迫る研究である。

20年来の目標であった惑星望遠鏡計画(EXCEED計画)が、小型科学衛星計画の初号機に採択され、2013年9月に打ち上げられ地球の周回軌道に入った(ひさき衛星)。
10年以上を費やして確立した光学系技術を用いた極端紫外光領域の宇宙望遠鏡で、地球の周回軌道から太陽系惑星周辺の大気・プラズマを観測する計画である。2015年の初頭にはすべての観測を終え、惑星大気の宇宙空間への流出や、月・水星を含む小天体の大気、木星磁気圏のプラズマ輸送に関するデータを獲得する。現在、ひさき衛星は、ハッブル宇宙望遠鏡や米国・欧州のX線宇宙望遠鏡ともに太陽系の惑星大気/プラズマを観測している。これにより、木星の磁気圏に起こるプラズマ輸送の問題は解明されつつある(論文準備中)。地球電磁気・惑星圏学会においても特別セッションが開催され、関連する分野を刺激し研究の発展を導くであろう。

(3) 地上望遠鏡を用いた惑星大気の観測(文献7,8)
飛翔体を用いた観測は、惑星大気に関する決定的な証拠をもたらすが、成果の創出には時間がかかりすぎる。
そのため、地上の望遠鏡を用いた惑星大気観測も実施している。水星の大気については、米国(ボストン大、メリーランド大)やフランス(Latmos研究所)、スペイン等と世界的なネットワークを築き、観測をしている。



文献

1)Yoshikawa, I., M. Nakamura, M. Hirahara, Y. Takizawa, K. Yamashita, H. Kunieda, T. Yamazaki, K. Misaki, and A. Yamaguchi, Observation of He II emission from the plasmasphere by a newly developed EUV telescope on board sounding rocket S-520-19, Journal of Geophysical Research, Vol. 102, 19897 - 19902, 1997.
2)Nakamura, M., I. Yoshikawa, A. Yamazaki, K. Shiomi, Y. Takizawa, M. Hirahara, K. Yamashita, Y. Saito, and W. Miyake, Terrestrial plasmaspheric imaging by an extreme ultraviolet scanner on Planet-B, Geophysical Research Letters, vol. 27, 141, 2000.
3)Yoshikawa, I., G. Murakami, G. Ogawa, K. Yoshioka, Y. Obana, M. Taguchi, A. Yamazaki, S. Kameda, M. Nakamura, M. Kikuchi, M. Kagitani, S. Okano, W. Miyake, Plasmaspheric EUV image seen from the lunar orbit: Initial Result of Extreme Ultraviolet Telescope onboard KAGUYA spacecraft, Journal of Geophysical Research, 115, CiteID A04217, 2010.
4)Ichiro Yoshikawa, Kazuo Yoshioka, Go Murakami, Atsushi Yamazaki, Fuminori Tsuchiya, Masato Kagitani, Takeshi Sakanoi, Naoki Terada, Tomoki Kimura, Masaki Kuwabara, Kuto Fujiwara, Tomoya Hamaguchi, Hiroyasu Tadokoro, Extreme Ultraviolet Radiation measurement for planetary atmospheres/magnetospheres from the Earth-orbiting spacecraft (Extreme Ultraviolet Spectroscope for Exospheric Dynamics: EXCEED), Space Science Reviews, Doi: 10.1007/s11214-014-0077-z, 2014.
5)K. Yoshioka, G. Murakami, A. Yamazaki, F. Tsuchiya, T. Kimura, M. Kagitani, T. Sakanoi, K. Uemizu, Y. Kasaba, I. Yoshikawa, and M. Fujimoto, Evidence for the Global Electron Transportation into the Jovian Inner Magnetosphere, Science, 345, 1581-1584, 2014.
6)Yoshikawa, I., O. Korablev, S. Kameda, D. Rees, H. Nozawa, S. Okano, V. Gnedykh, V. Kottsov, K. Yoshioka, G. Murakami, F. Ezawa, and G. Cremonese, The Mercury Sodium Atmospheric Spectral Imager for the MMO Spacecraft of Bepi-Colombo, Planetary and Space Science, Vol. 58, 224-237, 2010.
7)Yoshikawa, I., J. Ono, K. Yoshioka, G. Murakami, F. Ezawa, T. Toyota, S. Kameda, and S. Ueno, Observation of Mercury’s sodium exosphere during the transit on November 9, 2006, Planetary and Space Science, Vol. 56, 1676-1680, 2008.
8)Kameda, S., I. Yoshikawa, M. Kagitani, and S. Okano, Interplanetary dust distribution and temporal variability of Mercury’s atmospheric Na, Geophysical Research Letters, Vol. 36, doi:10.1029/2009GL039036, 2009.

その他

地球電磁気惑星圏学会(SGEPSS)運営委員(2007-2015)

将来計画

本研究室では、地球をはじめとする惑星の周辺に起こる電磁気的な擾乱(プラズマ物理学の範疇)の理解につとめ、
その帰結として起こる惑星の長期的な変化を解明することを目的としている。
究極には、太陽系外の惑星の様子や、所謂アストロバイオロジーまでをも研究の範囲とする。


教員からのメッセージ

何かを極めたことがあれば、その方面に進まなくても、その後の人生は明るく開けるでしょう。
何もしなくても生きてはいけますが、そういう人生で満足ですか?
新領域創成科学研究科は、社会に出る前に一旗あげたい人に最適です。



ホームページのURL

https://www.astrobio.k.u-tokyo.ac.jp/yoshikawa/