教員紹介

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芦 寿一郎

(あし じゅいちろう/准教授/環境学研究系)

自然環境学専攻/地球海洋環境学分野

略歴

1987年3月 神戸大学大学院理学研究科地球科学専攻修士課程修了
1991年3月 東京大学大学院理学系研究科地質学専攻博士課程修了(理学博士)
1991年4月 日本学術振興会特別研究員(東京大学海洋研究所)
1993年4月 東京大学大学院理学系研究科地質学専攻助手
2001年4月 東京大学海洋研究所助教授
2006年4月 東京大学大学院新領域創成科学研究科助教授(東京大学海洋研究所兼務助教授)
2007年4月 東京大学大学院新領域創成科学研究科准教授(東京大学海洋研究所兼務准教授)(現職)

教育活動

自然環境学演習I、II、海洋環境学演習I、II、海洋環境総合実習I、II 、深海科学概論

研究活動

 沈み込み帯における流体は、変形・温度構造・物質循環に大きな影響を与える。付加プリズムの成長と流体の挙動の関係を明らかにするため、南海トラフにおいてメタンハイドレート、冷湧水、泥火山といった流体・ガスの移動を示す浅部~表層での現行地質現象の研究を行なっている。また、南海トラフ沿いの巨大地震に関係した活断層の分布の解明と活動履歴の推定を試みている。以下に主な研究テーマを示す。

1)海底活断層
 海底活断層の分布は、付加プリズムの成長過程、流体湧出、津波や地震の防災を考える上で最も基本的な情報である。南海トラフの活断層の分布をスワス海底地形調査、サイドスキャンソナー画像、反斜法地震探査断面、潜水艇による海底観察に基づいてマッピングしている。

2)メタンハイドレート
 メタンハイドレートは、炭化水素の循環、地球温暖化、海底斜面の安定を考える上で重要である。さらに、メタンハイドレートを含む地層とその下のフリーガス層の境界と考えられている地震探査断面上にみられるBSR(海底疑似反射面)は、地温勾配やガス移動過程の推定に用いることができる。南海トラフ付加プリズムと前弧海盆におけるBSRの分布を調べ、熱流量とメタンガスの集積過程を推定している。

3)泥火山
 泥火山は、泥ダイアピルによって未固結泥が深部からもたらされ地表あるいは海底に噴き出して形成されたものである。泥火山の研究によって、掘削では到達できない深度の地質・地球化学・微生物の情報を得ることができる。熊野トラフにおいて、サイドスキャンソナー・ピストンコア・潜水艇を用いた研究を行なっている。これまでに、泥火山の表層地形や構成物質、活動の休止時期を明らかにしている。

4)冷湧水
 沈み込み帯の冷湧水はテクトニクスと深く関係している。流体排出経路となる海底下の地質構造は、冷湧水の分布とその化学組成から推定することができる。南海トラフにおいて、メタン湧出に伴う化学合成生物群集の分布調査を潜水艇、深海ビデオなどを用いて調査している。これまでの研究では、冷湧水の多くが海底活断層か泥火山に分布していることが分かっている。

文献

1) Ashi, J., Sawada, R., Omura, A. and Ikehara, K. (2014) Accumulation of an earthquake-induced extremely turbid layer in a terminal basin of the Nankai accretionary prism, Earth, Planets and Space, 66:51, doi:10.1186/1880-5981-66-51.
2) Ikehara, K., Irino, T., Usami, K., Jenkins, R., Omura, A. and Ashi, J. (2014) Possible submarine tsunami deposits on the outer shelf of Sendai Bay, Japan resulting from the 2011 earthquake and tsunami off the Pacific coast of Tohoku, Marine Geology 358, 120-127, doi:10.1016/j.margeo.2014.11.004.
3) Tsuji, T., Ashi, J. and Ikeda, Y. (2014) Strike-slip motion of a mega-splay fault system in the Nankai oblique subduction zone, Earth, Planets and Space, 66:120, doi:10.1186/1880-5981-66-120.
4) Ashi, J., Ikehara, K., Kinoshita, M. and KY04-11 and KH-10-3 shipboard scientists (2012) Settling of Earthquake-Induced Turbidity on the Accretionary Prism Slope of the Central Nankai Subduction Zone, Submarine Mass Movements and Their Consequences, Advances in Natural and Technological Hazards Research, Springer, 31, 561-571.
5) Ashi, J., Tokuyama, H. and Taira, A. (2002) Distribution of methane hydrate BSRs and its implication for the prism growth in the Nankai Trough, Marine Geology, 187, 117-191.
6) Ashi, J. and Taira, A. (1993) Thermal structure of the Nankai Accretionary Prism as inferred from the distribution of gas hydrate BSRs: Geological Society of America Special Paper 273, 137-149.
7) 著書:「自然環境学の創る世界」(2011, 共著,朝倉書店)、「付加体と巨大地震発生帯」(2009, 共著, 東京大学出版会)、「日本地方地質誌5」(2009, 共著, 朝倉書店)、「東海沖の海底活断層」(1999, 共著, 東京大学出版会)、「Photographic Atlas of an Accretionary Prism」(1992, 共著, 東京大学出版会/Springer)、「新編日本の活断層」(1991, 南海トラフ担当, 東京大学出版会)

その他

所属学会は、日本地質学会、日本地震学会、日本堆積学会、米国地球物理学連合

将来計画

 プレート沈み込み帯は、プレートの生成されている海嶺とともに堆積物・岩石・海水の活発な相互作用と大規模な地殻変動が行われている場である。そこには、二酸化炭素の十倍以上の温室効果をもつメタンの蓄積が知られている。また、人口密集地に近いこともあり、地震・津波・海底地すべりなど自然災害を考える上でもそこで起こる現象の理解は重要である。我々のグループでは、現在、海底表層の直視観察・試料採取、音波を利用した微地形・地下構造データの取得、深海掘削を含む柱状試料の採取を行なっている。これらの現行地質過程と数百万年までさかのぼる地質記録を含む情報を、総合的に解釈することにより、海底環境変動の将来予測を行ってゆきたい。また、これまで行われていない年単位、あるいはリアルタイムのモニタリングによる海底環境変動の解明を目指したい。

教員からのメッセージ

 大海原の底で何が行われているのか、我々は非常に限られた知識しか未だ持っていません。しかし、近年の観測技術の発展によって海底表層から地下の物質、地形、地下構造の良質なデータが取得されつつあります。想像以上に活動的で、地球環境と密接に関係している海底を研究船に乗って調べてみませんか。自然環境学コースには、様々な視点をもった教員・大学院生が居ます。広い視野をもち、研究成果の社会への還元を常に考慮した新しい研究領域を開拓して欲しいと思います。