鈴木 雅京
(すずき まさたか/准教授/生命科学研究系)
先端生命科学専攻/資源生物制御学分野/性決定・昆虫特異機能の追求と開発
略歴
1993年3月 東京農工大学農学部蚕糸生物学科卒業
1995年3月 東京大学大学院農学生命科学研究科 生産・環境生物学専攻 修士課程修了
1998年3月 東京大学大学院農学生命科学研究科 生産・環境生物学専攻 博士課程修了
1998年4月 理化学研究所 奨励研究員
2000年4月 日本学術振興会特別研究員(PD)
2002年4月 理化学研究所 研究員、2010年東京大学大学院新領域創成科学研究科講師(現職)
教育活動
大学院:昆虫発生生理学
農学部:昆虫利用学、応用生物学専門実験
研究活動
「地球は昆虫の星」であると言えます。なぜなら、地球上の全動植物種のうち、54%が昆虫によって占められているからです。昆虫が繁栄した最大の要因は、その高い適応能力にあります。不適環境を耐える休眠、ダイナミックな機能変化を生み出す変態、多様な生殖様式など、その適応戦略は人間の想像を遙かに超えるものです。特に私達は、昆虫における多様な性決定・性分化様式に着目した研究を主要なテーマとしています。昆虫は性ホルモンを持たない、と言う点で脊椎動物の性決定様式と大きく異なるばかりでなく、昆虫種間でも性決定様式は多岐に渡り、多くの種においてその詳細は未解明のままです。また、性分化と生殖とは密接な関係にあることから、多様な昆虫の性決定機構を理解出来れば昆虫の繁殖の制御が可能となり、害虫防除法への応用も期待できます。この点に着目し、モデル昆虫であるカイコを中心とした昆虫における性決定・性分化機構や生殖細胞の分化機構についての理解を広め、その害虫防除法への応用を視野に入れた研究を行っています。
これまでに、遺伝子組換えカイコを利用してカイコの性決定に関わる遺伝子やその標的となる遺伝子を明らかにして来ました(文献2, 3)。また、昆虫性決定の研究解析に有用なツールとして、同一組織由来で性だけが異なる培養細胞株の樹立に成功しました。実際にこの培養細胞を用いて、カイコの性決定遺伝子Bmdsxの選択的スプライシング制御に関わる因子を同定するなどの成果を収めています(文献1)。一方で、カイコの資源生物としての利便性の向上を目指し、カイコにおけるジーンターゲティング法の開発にも取り組んでいます。
文献
(1) Suzuki M. G., Imanishi S., Dohmae N., Nishimura T., Shimada T., and Matsumoto S. (2008) Establishment of a novel in vivo sex-specific splicing assay system to identify a trans-acting factor that negatively regulates splicing of Bombyx mori dsx female exons. Mol. Cell. Biol., 28:333-343.
(2) Masataka G. Suzuki, Shunsuke Funaguma, Toshio Kanda, Toshiki Tamura, and Toru Shimada (2005) Role of the male BmDSX protein in the sexual differentiation of Bombyx mori. Evolution and Development, 7 (1): 58-68.
(3) Masataka G. Suzuki, Shunsuke Funaguma, Toshio Kanda, Toshiki Tamura, and Toru Shimada (2003) Analysis of the biological functions of a doublesex homologue in Bombyx mori. Developmental Genes and Evolution, 213 (7):345-354.
その他
日本蚕糸生物学会(昆虫遺伝研究会幹事)
日本分子生物学会
日本応用動物昆虫学会
将来計画
ショウジョウバエやカイコにおける知見を軸足として、他の昆虫における性決定機構についても研究を行う予定です。更に、脊椎動物の性決定機構との比較解析を行い、昆虫性決定機構における特異性と共通性を明らかするつもりです。また、性分化に密接に関連するイベントとして生殖細胞の分化を挙げることが出来ますが、昆虫では生殖細胞の分化についての理解が立ち後れているため、この点についての研究にも取り組みたいと考えています。その他、昆虫固有の機能的特性を追求し、新たな生物資源の開発を目指した研究を進めて行くつもりです。
教員からのメッセージ
昆虫は地球上で最も繁栄した生物であると言われています。また、人間に比べるとずっと歴史の長い生物でもあります。人間はまだ一度も絶滅の危機に瀕したことはありませんが、昆虫は長い歴史の中で少なくとも4度に渡る大絶滅の危機を乗り越えてきました。そう考えると、昆虫には資源生物として優れた利用価値が秘められていることは言うまでもなく、生き方の面でも学ぶべき点が多々あるのではないかと思わされます。昆虫の研究を通して研究者としてのスキルを錬磨すると共に、人生を切り拓く「サバイバルスキル」も身につけて下さることを期待します。