たためる架構のインスタレーション"ハドロン衝突" 建築構造デザインスタジオ2023
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2023年12月24日から12月28日まで、柏キャンパス新領域環境棟の前に、"散乱型展開構造2023:ハドロン衝突"と題し、「建築構造デザインスタジオ」に参加する学生が制作した構造作品を展示しました。
「建築構造デザインスタジオ」は、本研究科環境学研究系に設置する「環境デザイン統合教育プログラム」のうちのひとつ。毎年10月〜12月にワークショップを行い、完成した作品を柏キャンパス内に展示しています。
作品のタイトル「散乱型展開構造2023:ハドロン衝突」
5ミリメートルの太さのカーボンロッドをオリジナルの花型ジョイントで連結させた、高さ4メートルを超える架構。タイトルは、作品全体の形状からインスピレーションを得た。強粒子とも呼ばれる、複合粒子ハドロンが衝突した時の様子に似ていることから「ハドロン衝突」と名付けた。
例年この時期になると建築構造デザインスタジオで制作した作品を展示していますが、今年度の作品の特徴は、なんといっても「たためる」ということ。実は、昨年度も同様の架構を制作し、線香花火型モジュールの考案やスムーズに展開する花型ジョイントの開発という成果を挙げましたが、残念ながら時間切れとなり、たためる形状を見つけるまでには至りませんでした。
今年度は昨年度メンバーのノウハウを引き継ぎ、モジュール形状はそのままに、ジョイントは改善点が分かっていたので素早くアップデートすることができました。それにより「たためる形状を見つけること」に専念することができ、ついに、この複雑な形状の架構全体をたたむことを実現しました。
架構をたたんだ様子
カーボンロッドをつなぐジョイントをスライドさせることなく、たたむことができる構造設計を実現した。
10月末頃に企画がスタートし、完成までの期間は約2ヶ月。使用したカーボンロッドは160本、ジョイントは約150個にのぼります。修士1年のメンバー12人が、形状決定班、ジョイント開発班、構造解析班の3チームに分かれて制作を担当しました。
形状決定班
細い檜の棒を使って、まずはアナログで組み合わせを検討していった。
ジョイント制作班
作成した2種類のジョイント。3Dプリンターを使い、作成に340時間程度かかった。
構造解析班
解析プログラムを利用して設計強度を解析し、力学的最適化を施して安全性の高い構造を目指す。
実際の組み立ての様子。少しずつ組み立ててはたたんで、を繰り返しながらジョイントの位置を修正していく。
こうして、2023年度の「建築構造デザインスタジオ」ワークショップは、学生たちの試行錯誤の末に、最終目標の「たたむこと」を達成することができました。「建築構造デザインスタジオ」は、災害時を想定した「壊れても死なない構造」を追求しており、本作品はワークショップの一環として制作されました。
今年度の制作メンバーの中山 亘さん(修士課程1年)は、「制作において、最適な形状を模索しながら解析を重ね、実際に大きな架構を構築する作業は、建築設計において重要な工程だと感じた。スタジオは、新領域だけでなく、他研究科所属のメンバーもいて、普段と違う学びがあり充実した2ヶ月間だった。」
フランスからの留学生のテオさんは「私の専門はデザイン。フランスをはじめ、海外ではデザインと構造建築は分野が違うため、今回の制作の工程はとても新鮮だった。海外では、構造デザインはあまり確立されていない分野なので、貴重な体験。」と今回の制作について語りました。
このスタジオの主宰である佐藤淳准教授は、「制作スタート当初は、なかなか前に進まず手こずっていたけれど、ラストスパートで完成にこぎつけた集中力は素晴らしかった。この架構全体は三日月型になっており、力学的にバランスをとるのが難しい形状であるが、高さ4メートルを達成し、迫力があるものになった。試行錯誤を続ける中で、おりたためる形状を構成することが得意になる学生や、力学的最適化を1人でやり遂げた学生、構造解析モデルを半自動生成するアルゴリズムを作る学生も現れるなど、それぞれの能力を発揮した。次の発想につながりそうな新たな形状などもいくつか見つけられた。」と好評しました。
また、このプログラムの目的として、「模型が実際に大型の構造物になった時にその構造物にはたらく力や作用が大きく変わる。そういったスケール効果や施工を学ぶための機会。また、実際の現場では準備が不十分のまま制作にとりかからなければならないなど、時には「見切り発車」が必要な場面もある。想定外の事象やトラブルに対応しながらも納期までに完成させるという工程も体感し学んで欲しい。」と佐藤准教授は語りました。
直径30cmの筒状に束ね折り畳めるようにしながらも、構造の維持を実現。3Dプリントした接合具により、展開時にはスライド機構とヒンジ機構が働き「不安定」な状態なものの、脚を開いて地面に固定した状態で働く重力により発生する力は、それら不安定な方向とは異なり、安定状態を保つことができます。 pic.twitter.com/aflXGsAgMq
-- 佐藤淳研究室 Jun Sato Laboratory, University of Tokyo (@junsatolab) January 10, 2024
画像提供:佐藤 淳研究室
取材・執筆:蘭 真由子
関連リンク
環境デザイン統合教育プログラム(IEDP)
https://iedp.site/
建築構造デザインスタジオ
https://iedp.site/studio/architectural-structure-design/