植物の細胞壁が外部刺激に応答する分子機構の一端を解明
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発表者
桧垣 匠(東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻 特任准教授)
秋田 佳恵(東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻 特任研究員)
朽名 夏麿(東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻 特任准教授)
馳澤 盛一郎(東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻 教授)
発表内容
植物の細胞壁は,病原体や物理環境変化などの外部刺激を受容し,処理し,応答する場として機能します.細胞壁の主成分であるセルロースを分解する酵素(セルラーゼ)を植物の葉に処理すると,葉の表面をつくる細胞がジグソーパズルのように複雑に入り組んだ形から単純にまっすぐ伸びた形へと変化することが知られていました.しかし,この変形がどのような分子機構によって引き起こされるのか分かっていませんでした.
東京大学大学院新領域創成科学研究科の桧垣匠特任准教授,秋田佳恵特任研究員,朽名夏麿特任准教授,馳澤盛一郎教授は,葉の細胞のジグソーパズル型の形づくりに重要な役割を果たすことが知られていたRIC1という微小管結合タンパク質に注目し,そのセルラーゼ応答における役割を解析しました.その結果,RIC1を欠損する変異体ではセルラーゼを処理してもジグソーパズル型の細胞形状に顕著な変化が認められないことを見出しました(下図,左).
この観察結果を受けて,九州大学大学院医学研究院の今村寿子助教,三浦岳教授らのグループと協働して,植物細胞壁の力学シミュレーション解析を行いました.その結果,RIC1を欠損する変異体ではセルラーゼ処理に応答して細胞壁が過剰に合成され,その結果として圧縮力によるひずみが細胞壁に生じてジグソーパズル型に変形する可能性が示されました(下図,右).
本研究によって,植物細胞壁の外部刺激応答機構においてRIC1タンパク質が主要な役割を果たすことが明らかになりました.本成果を足掛かりにして,植物の外部環境応答システムの解明がより一層進むことが期待されます.本研究成果は2016年12月22日に我が国の学術団体が発行する英文科学雑誌として国際的に極めて高い評価を誇る「Plant and Cell Physiology」に掲載されました.
発表雑誌
雑誌名:Plant and Cell Physiology
論文タイトル:Exogenous cellulase switches cell interdigitation to cell elongation in a RIC1-dependent manner in Arabidopsis thaliana cotyledon pavement cells
著者:T. Higaki, H. Takigawa-Imamura, K. Akita, N. Kutsuna, R. Kobayashi, S. Hasezawa, T. Miura
DOI番号: 10.1093/pcp/pcw183
論文のリンク:http://pcp.oxfordjournals.org/content/early/2016/12/21/pcp.pcw183.full
問い合わせ先
東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻
特任准教授 桧垣 匠
Tel: 04-7136-3708
E-mail: higaki@k.u-tokyo.ac.jp
図.葉の表面をつくる細胞の顕微鏡観察像(左)と力学シミュレーション結果(右).