高温度プラズマの維持を阻害する要因を特定 ―熱雪崩が及ぼす影響を実験的に観測―
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京都大学
量子科学技術研究開発機構
中部大学
豊橋技術科学大学
東京大学大学院新領域創成科学研究科
概要
京都大学エネルギー理工学研究所 金 史良 助教 (研究当時 量子科学技術研究開発機構 研究員)、量子科学技術研究開発機構 吉田麻衣子 グループリーダー、中部大学 伊藤公孝 卓越教授、豊橋技術科学大学 坂東隆宏 助教、 東京大学大学院新領域創成科学研究科 篠原孝司 教授らの研究グループは、磁場閉じ込め核融合プラズマ*1において発生する突発的なエネルギーの流出(熱雪崩輸送*2)が、高温度状態のプラズマ(高閉じ込め状態*3)の維持を妨げる要因であることを実験的に発見しました。
これまで、超高温度の核融合プラズマの閉じ込めを劣化させる要因として、熱雪崩輸送が計算機シミュレーションなどで予想されていました。本研究では、臨界プラズマ試験装置(JT-60*4)において、プラズマ加熱パワー増加時のプラズマ温度分布や密度揺動強度等の実験データを詳細に解析することで、熱雪崩輸送が高閉じ込め状態に及ぼす影響を初めて明らかにしました。熱雪崩輸送はプラズマ温度分布を一定に保つような働きをしますが、高閉じ込め状態に遷移*5する際の温度上昇を抑制する働きが観測されました。将来の核融合炉の運転においては、熱雪崩輸送の発生を制御することが、高閉じ込め状態を維持するための重要な条件であることが、本研究によって新たに示唆されました。
本成果は、2023年11月13日に国際学術誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されました。
概略図
熱雪崩の発生が高閉じ込め状態の維持を阻害する様子を示しています。
発表内容
1.背景
核融合エネルギーを効率的に得るためには、高温な状態のプラズマ(高閉じ込め状態*3)を長時間維持する必要があります。一方で核融合プラズマでは、大小様々な規模の乱流輸送パターンが生起し、プラズマの閉じ込め性能を劣化させる要因となることが知られています。特に、「熱雪崩輸送*2」と呼ばれる突発的に発生する温度の伝搬現象は、プラズマの温度上昇を抑えて閉じ込め性能の効率を妨げる要因として、計算機シミュレーションなどで予想されていました。本研究では、熱雪崩輸送が高閉じ込め状態にどのような影響を及ぼすのか、実験的に初めて観測しました。
2.研究手法・成果
本研究グループは、臨界プラズマ試験装置(JT-60*4)のプラズマ加熱パワー増加時のプラズマ温度分布と密度揺動等の実験データを詳細に解析し、熱雪崩輸送が高温閉じ込め状態に及ぼす影響を明らかにしました。これまで熱雪崩輸送が起きたタイミングを同定することが困難でしたが、乱流計測と解析手法を駆使してプラズマ密度の揺らぎと同時に熱雪崩が発生していることを見出し、その結果として熱雪崩輸送の詳細なダイナミクスの観測に成功しました。
熱雪崩輸送は、プラズマの温度上昇を妨げて一定の温度分布を保持するように発生するため、プラズマが低閉じ込め状態から高閉じ込め状態へ遷移*5する際にも影響を及ぼします。概略図右上に示すように、一時的に温度が上昇して高閉じ込め状態になっても、熱雪崩輸送が発生するとその状態は維持されず、プラズマ温度は低閉じ込め状態に戻ることが知られています。一方で、熱雪崩輸送が消失する場合は、概略図右下に示すように、温度上昇が続いて高閉じ込め状態が維持されることが分かりました。実際に、熱雪崩による熱エネルギーの損失量と、高閉じ込め状態から低閉じ込め状態への熱エネルギーの減少量が同程度であったため、定量的にも熱雪崩輸送による高閉じ込め状態への阻害が明らかにされました。
3.波及効果、今後の予定
本研究で得られた結果は、将来の核融合炉運転において極めて重要な知見になることが期待されます。高閉じ込め状態を効果的に維持するためには、熱雪崩輸送の発生を極力抑制し、かつ制御する必要が示されました。しかし、熱雪崩輸送がいつ、どこで、どういう原因で発生するのか、といった重要な問題はまだ解明されていません。これは突発現象の予測という、現代物理学でも挑戦的な課題になりますが、今後の研究でその端緒を開けるよう探究を進める予定です。
4.研究プロジェクトについて
本研究は、文部科学省科学研究費助成事業 (JP20K14446, JP21K03513)、日本学術振興会 研究拠点形成事業「PLADyS」、量子科学技術研究開発機構と京都大学の共同研究「JT-60Uにおけるイオン熱輸送のダイナミクス解析」の支援を受けて行われました。
用語解説
※1 磁場閉じ込め核融合プラズマ: 荷電粒子であるプラズマは、磁力線に巻き付く様に回転運動するため、磁力線をトーラス状に曲げることでプラズマを閉じ込めることができる。閉じ込めたプラズマの温度と密度を十分に高くすることができれば、軽元素イオンによる核融合反応が発生し、そのエネルギーは発電に利用できる。
※2 熱雪崩輸送: 温度の変動が連鎖的に伝搬する現象。温度勾配が臨界値を超えると突発的に発生し、温度分布を一定に保つように熱が輸送される。系自身の自己調整により臨界近傍の状態を保つ「自己組織化臨界現象」の一種。類似例として、アリジゴクの巣穴の傾斜角が砂崩れの起こる寸前の角度に保たれている状態。
※3 高閉じ込め状態: 温度分布に「輸送障壁」と呼ばれる断熱層ができると熱の閉じ込め性能が向上し、その結果プラズマ中心部の温度が増加する。「輸送障壁」を持つ状態を高閉じ込め状態と呼ぶ。
※4 JT-60: 量子科学技術研究開発機構那珂研究所に設置されていた臨界プラズマ試験装置。2008年の運転終了まで、プラズマ温度や核融合エネルギー増倍率において世界最高値を達成し、世界の核融合研究開発をリードしてきた。現在はトカマク型超伝導プラズマ実験装置JT-60SAに改修され、統合試験運転において初トカマクプラズマ生成に成功した。
※5 高閉じ込め状態への遷移: 「輸送障壁」が形成される始まりの状態。「輸送障壁」は様々な要因で形成されるが、本研究ではプラズマ電流の増加に伴い磁場構造が変化すると突如温度が上昇し始め、遷移が起こる。
研究者のコメント
本研究をきっかけに、新たな実験立案や共同研究が始まるなど、実り多い展開となりました。研究の進行にあたり、多くの有益なご助言をいただいた共同研究者の皆様に、心より感謝申し上げます。(金 史良)
論文情報
タイトル:Impact of avalanche type of transport on internal transport barrier formation in tokamak plasmas (トカマクプラズマの内部輸送障壁形成に及ぼす雪崩輸送の影響)
著 者:F. Kin, K. Itoh, T. Bando, K. Shinohara, N. Oyama, A. Terakado, M. Yoshida and S. Sumida.
掲 載 誌:Scientific Reports
DOI:10.1038/s41598-023-46978-0
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