月面に構築するベースキャンプの開発
- 研究成果
近年、NASAが主導する人類を再び月面に着陸させる月探査計画「アルテミス計画」をはじめ、世界各国で官民問わず月への着陸計画が進んでいます。月面着陸が達成されたその先には、月面活動において生命を維持するためのインフラの整備が必須であり、そのための技術開発もさまざまな分野で進んでいます。
東京大学大学院新領域創成科学研究科の佐藤淳准教授らの研究グループは、九州大学、JAXAと共同で、月面開発の初期段階での拠点となるベースキャンプの開発モデルを提案しました。
月の「極域(南極)」には地球の白夜のようにほとんど太陽が沈まない「永久日照」があります。太陽光発電に都合よく極寒を避けられる、人類の滞在候補地とされています。クレーターの底にある「永久影」の砂に含まれる水を採取する計画も進んでいます。
「極域/南極」の極小型クレーターなどへのセットアップ
また、月には「縦孔(たてあな)」と呼ばれる洞窟がいくつも見つかっています。縦孔は「温度差」「放射線」「隕石」などの危険を避けることができるため、こちらも人類の滞在場所として有力な候補地とされています。
「縦孔」へのセットアップ
提案するベースキャンプは、これら両方の候補地を想定しています。人の居住空間として「滞在モジュール」を設営します。大人2人が1~4週滞在する小型版から4人が6ヶ月程度滞在する大型版まで想定し物資の量などの試算もしています。モジュールの狭隘(きょうあい)部は「高密度緑化」で無駄なく活用します。そのほか、資材や物資をクレーター底や縦孔に送るケーブルリフト、コンパクトに折りたたみ可能な構造のソーラーパネルなども同時に設置します。
月に物資を運ぶには、軽量、コンパクトにする必要があります。この月面ベースキャンプモデルは、最小の構築物を少ない労力で素早く展開する「展開着床機構」の開発を進めます。
小型モックアップの設計で各モジュールの形状は概ね定まり、実大パーツの試作を開始しました。今後、実大スケールでの設計と予備探査機の設計を進めます。
詳細は、佐藤淳研究室ウェブサイトをご覧ください。
https://junsato.k.u-tokyo.ac.jp/LunarMarsBaseCamp-WebRelease20231231.htm
開発チーム
東京大学
大学院新領域創成科学研究科
佐藤 淳 准教授
大学院農学生命科学研究科
河鰭 実之 教授
大学院工学系研究科
横関 智弘 准教授
九州大学
大学院芸術工学研究院
斉藤 一哉 准教授
宇宙航空研究開発機構(JAXA)
研究開発部門
桜井 誠人
施設部
阿波田 康裕
星之内 菜生
研究助成
本開発は以下のプロジェクトで実施したものです。
(1) 国交省及び文科省連携「宇宙建設革新プロジェクト(スターダストプログラム)
「月の縦孔での滞在開始用ベースキャンプの最少形態と展開着床機構」2022~2023年度
https://www.mlit.go.jp/report/press/kanbo08_hh_000959.html
(2) JAXA宇宙探査イノベーションハブ 共同研究 第6回チャレンジ型「外外皮と床が即時展開されるベースキャンプとその内部緑化空間の構築」2021年度
https://www.ihub-tansa.jaxa.jp/introduction/joint_studies.html
学会発表
(1) Jun Sato, Saneyuki Kawabata, Tomohiro Yokozeki, Kazuya Saito, Makoto Sakurai, Yasuhiro Awata, Nao Hoshinouchi : Quick Setup Mechanism for Lunar Base Camp in the Pit / on the Pole, Global Moon Village Workshop & Symposium, 2023
(2) 佐藤淳, 河鰭実之, 横関智弘, 斉藤一哉, 桜井誠人, 阿波田康裕, 星之内菜生:縦孔での滞在開始用ベースキャンプの展開着床機構, 第67回宇宙科学技術連合講演会, 4C12, 2023
(3) 佐藤淳, 河鰭実之, 横関智弘, 斉藤一哉, 桜井誠人, 阿波田康裕, 星之内菜生:月の縦孔での滞在開始用ベースキャンプの最少形態と展開着床機構の開発, 第67回宇宙科学技術連合講演会, 1N13, 2023
(4) Jun Sato, Saneyuki Kawabata, Tomohiro Yokozeki, Kazuya Saito, Makoto Sakurai, Yasuhiro Awata, Nao Hoshinouchi : Passive Deployment Mechanisms for Minimal Composition of Lunar/Martian Base Camp Implanted into Lava Tube, 52nd International Conference on Environmental Systems (ICES), 233, 2023
(5) Jun Sato, Saneyuki Kawabata, Luciana Tenorio, Junichi Yazawa, Atsuyuki Yukawa, Yasuhiro Awata : Quick Setup Lunar/Martian Base Camp Implanted into Lava Tube Derived from Jasmine Dimples and Low Curvature Folding (in press), International Astronautical Congress (IAC), IAC-22, LBA, A3, 3, x74519, 2022
(6) 佐藤淳, 河鰭実之, Luciana Tenorio, 矢澤潤一, 湯川敦之, 阿波田康裕:縦孔に展開着床する滞在開始用ベースキャンプの最少形態, 第66回宇宙科学技術連合講演会, 4A12, 2022
(7) 佐藤淳:外皮と高床骨組が同時に即時展開するベースキャンプ, 第65回宇宙科学技術連合講演会, 2H02, 2021