研究成果

東大新領域、株式会社United Geno Bridgeによる社会連携講座開設

投稿日:2013/12/01
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最新のゲノム解析技術を駆使して院内感染などを制御するための共同研究を推進

発表者

菅野純夫(東京大学大学院新領域創成科学研究科 メディカルゲノム専攻 教授)

発表のポイント

◆東京大学大学院新領域創成科学研究科に株式会社United Geno Bridgeによる社会連携講座を開設
◆本講座では、次世代シーケンサ(NGS)注1を活用したゲノム情報の詳細な解析を通じて薬剤耐性菌の同定・制御を目指した共同研究を行う。
◆実現すれば、薬剤耐性菌注2等による院内感染等の起炎菌・感染経路の正確迅速な特定を可能にし、院内感染治療に費やされる年間3千億円以上の医療費の削減に貢献する。

発表概要

 東京大学大学院新領域創成科学研究科(担当教員:菅野純夫 同研究科メディカルゲノム専攻 教授/同研究科附属オーミクス情報センター 教授)と株式会社United Geno Bridgeは、社会連携講座「次世代感染ゲノム制御学」を開設します。設置期間は、平成25年12月1日から平成30年11月30日までの5年間です。
 抗生物質が世に出てから約1世紀、抗生剤は多くの感染症撲滅に威力を発揮しました。しかし現在、抗生剤に耐性を持つ多種類の薬剤耐性菌が出現し、院内感染による死亡者の増加などが問題となっています。院内感染の原因となる薬剤耐性菌を同定し制御するには、多種類のゲノム情報の詳細な解析が必要です。
 本講座では、近年登場した次世代シーケンサ(NGS)の情報量を活かし感染制御を研究します。NGSにより微生物遺伝子のDNA配列を解読することで、微生物の属、種、株レベルに分類できる解像度のDNA情報を取得します。また、NGSの特徴を生かし、従来不可能であった複数の起炎菌(感染症の原因となる細菌)が存在する場合の量的割合を得られる検査手法の開発を目指します。
 これらの研究を通じ、患者に最適な抗生剤投与を可能にするとともに、医療施設などで薬剤耐性菌による爆発的な感染が広がった際の迅速な感染源の特定を可能にする感染制御システムの構築を目指します。それにより、院内感染による死亡率の低減と日本における年間3千億円以上の医療費削減に貢献することを目指します。

発表内容

 抗生物質が世に出てから約1世紀、抗生剤は多くの感染症撲滅に威力を発揮しました。しかし、現在、抗生剤に耐性を持つ多種類の薬剤耐性菌が出現し、社会生活に暗い影を与えています。たとえば、薬剤耐性菌等の院内感染による死亡者の増加が問題となっており、日本における院内感染患者治療に対する医療費は年間3千億円以上と推計されています。
 そのため今世紀には、新たな視点で感染症を制御する学問が必要となっています。

 

 

 院内感染の原因となる薬剤耐性菌を同定し制御するには、多種類のゲノム情報の詳細な解析が必要です。
 ヒトゲノムプロジェクト全塩基配列の解読から13年、当時ヒトゲノムの解析に要していた膨大な時間(3年/人)と費用(300億円/人)の問題は、次世代シーケンサ(NGS)の登場により飛躍的に改善し、現在では3週間/人、60万円/人での解析が可能となりました。
 今回、東京大学大学院新領域創成科学研究科(担当教員:菅野純夫 同研究科メディカルゲノム専攻 教授/同研究科附属オーミクス情報センター 教授)と株式会社United Geno Bridgeにより平成25年12月1日から平成30年11月30日まで開設される社会連携講座「次世代感染ゲノム制御学」では、NGSの情報量を活かして起炎菌(感染症の原因となる細菌)の解析同定研究を行います。具体的には、薬剤耐性菌を含むヒトに共生・寄生している細菌叢(さいきんそう:細菌が一箇所に群がっている場所、マイクロバイオーム)の遺伝子をNGSで解析しデータベース化するとともにタキソノミー解析注3等を行い、新しい感染制御アルゴリズムの研究開発を行います。
 これらの研究を通じ、患者に最適な抗生剤投与を可能にするとともに、医療施設などで薬剤耐性菌による爆発的な感染が広がった際の迅速な感染源の特定を可能にする感染制御システムの構築を目指します。また、得られたデータベースを基に日常の院内感染管理を行うことで、院内感染の広がりを未然に防ぐ感染の制御が可能になります。さらに、このようなデータベースを、都市、県、国のレベルまで広げて集積することで全国的な流行が俯瞰できると考えます。感染症制御に特化したデータベースを充実し、このデータベースの一部を公開活用してもらうことは社会貢献につながります。
 本講座では、このような技術開発により、院内感染による死亡率の低減と日本における年間3千億円以上の医療費削減に貢献することを目指します。 

問い合わせ先

東京大学大学院新領域創成科学研究科 メディカルゲノム専攻
教授 菅野 純夫 (すがの すみお)
TEL:03-5449-5286 FAX:03-5449-5416
E-mail: ssugano@k.u-tokyo.ac.jp

用語解説

注1:次世代シーケンサ:Sanger シーケンシング法を利用した蛍光キャピラリーシーケンサである「第1世代シーケンサ」と対比させて使われている用語で、パイロシークエンス法、合成シークエンス法といった新しい原理により、シークエンス効率を1000倍以上に上げたもの。複数の企業からさまざまな装置が発売されている。
注2:薬剤耐性菌:抗生物質が効かない病原菌。例えば黄色ブドウ球菌に使われるメチシリンに耐性の菌は、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)と呼ばれる。
注3:タキソノミー解析:生物を分類する学問。遺伝子のDNA配列を比較して系統を推定する方法。