研究成果

世界初 ワイヤレスで電力伝送する『ワイヤレスインホイールモータ』搭載車の走行に成功

投稿日:2015/05/20
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会見日時

2015年 5月18日(月)14:00~16:00

会見場所

東京大学柏キャンパス構内(住所:千葉県柏市柏の葉5-1-5)
東京大学新領域基盤棟2階 大会議室(2G5)

出席者

�@東京大学 大学院新領域創成科学研究科 先端エネルギー工学専攻
 東京大学 大学院工学系研究科 電気系工学専攻
 准教授 藤本博志

�A東京大学 大学院新領域創成科学研究科 先端エネルギー工学専攻
 助教 居村岳広

�B東京大学 新領域創成科学研究科 先端エネルギー工学専攻 堀・藤本研究室
 (東洋電機製造株式会社 研究所半導体応用研究室)
 大学院博士課程 佐藤 基

�C東京大学 新領域創成科学研究科 先端エネルギー工学専攻 堀・藤本研究室
 (日本精工株式会社 未来技術開発センター 開発第二部)
 大学院博士課程 郡司 大輔

発表のポイント

■発明内容
・電気自動車(EV)のインホイールモータ(注1)と言えば、車体の電源から車輪への配線があるのが当たり前でしたが、東京大学大学院新領域創成科学研究科の藤本博志准教授らの研究グループは、東洋電機製造株式会社、日本精工株式会社との共同研究においてこの配線を無くし、ワイヤレスで、電力と制御信号を伝送するインホイールモータ(図1)を開発し、それを搭載したEV(図2)を世界で初めて走行させることに成功しました。


図1   ワイヤレスインホイールモータ


図2  ワイヤレスインホイールモータ搭載車

■社会的意義
 EVは環境性能に優れるだけでなく、モータの速い応答性により運動性能にも優れています。特にホイール内部に駆動源を配置するインホイールモータは駆動力をタイヤに直接伝達できるため最も望ましい駆動形態です。このモータを搭載したEVは4輪の独立した駆動力制御により駆動力をタイヤに直接伝達できるため、ドライブシャフトによる機械的損失がなく、車両重量が削減できるほか、各輪の個別制御が可能になります。これにより、タイヤの横滑りやタイヤのスリップを防止して安全性を向上させたり、各輪へ最適な駆動力を配分したりして航続距離を延長するなど様々なメリットを享受できます。
 しかしながら、従来のインホイールモータは車体側からワイヤにより有線で電力が供給されています。これをワイヤレス化することで従来懸念されたインホイールモータとインバータ(注2)間との断線がなくなり、安全性および信頼性が向上し、インホイールモータのさらなる普及の可能性が高まることとなります。

発表概要

 東京大学大学院新領域創成科学研究科の藤本准教授らの研究グループは、東洋電機製造株式会社、日本精工株式会社との共同研究において、世界で初めて、ワイヤレス電力伝送を用いたインホイールモータを開発し、実際にそのインホイールモータを電気自動車に搭載し、走行に成功しました。
 世界初となるこの技術は、磁界共振結合方式(注3)を用いて10cm離れたコイルとコイル間の電力伝送に成功した他、ワイヤレス通信を用いることで車体と車輪間の完全なワイヤレス化を実現しました。

発表内容

■研究背景(インホイールモータの可能性)
 EVはその優れた運動性能より、様々なメリットを享受できます。
 しかし、従来のインホイールモータは車体側からワイヤにより有線で電力が供給されていることと、自動車の車輪内部に装備されていることから、動力線や制御などの配線が煩雑であり、振動による屈曲や寒冷地における凍結、飛散物の衝突などの影響による断線の恐れがありました。自動車用モータは10年以上の耐久性を保証する必要があるため,このケーブル断線のリスクは、インホイールモータの実用化を妨げる要因とされていました。
 そこで、本研究グループは、「ワイヤが断線する恐れがあるならばいっそのことワイヤをなくしてしまおう」と大胆なことを考えました。磁界共振結合方式を用いたワイヤレス電力伝送技術およびSiC(注4)を用いた電力変換技術により、配線のワイヤレス化を実現したため、断線の恐れがなくなり、安全性および信頼性が飛躍的に向上しました。

■ワイヤレスインホイールモータの仕組み
 インホイールモータはサスペンションの動きにより車体との相対変位が変動するため、送受電コイルの位置ずれに強い磁界共振結合による方法を採用しました。図3にワイヤレスインホイールモータの簡略な構成図を示します。
 磁界共振結合方式では共振コンデンサ(注5)の挿入方法によりいくつかの回路構成が知られていますが、ワイヤレスインホイールモータでは電力回生時に回路の切り替えが不要等の理由から一次側・二次側ともに共振コンデンサとコイルを直列とする方式を採用しました。一次側の電力変換回路はDCDCコンバータ(注6)とインバータで構成されており、バッテリの電圧を適切な電圧に昇降圧した後、その電圧を入力してインバータがコイルと共振コンデンサの共振周波数と同じ周波数の高周波電圧に変換します。変換された電力は磁界共振結合によりワイヤレスで伝送されます。
 伝送された電力は二次側の回路をコンバータ(注7)として動作させることで直流に整流され、さらにモータ駆動用のインバータにより永久磁石同期モータ(注8)を駆動します。

図3 ワイヤレスインホイールモータ構成図

 

■今後の研究
 ワイヤレスインホイールモータは、走行中に充電出来る可能性があり、走行中に充電が出来れば、電力を供給しながらどこまでも走り続けることが可能となり、大容量のバッテリが不要となることも期待されます。
 今回開発した電気自動車は市販車と比較してまだ出力が小さいですが、今後は高出力化と地上からの給電による「走行中給電」の実現を目指します。

図4    走行中給電イメージ(一部の高速道路において)

 

■ワイヤレスインホイールモータの可能性
 これまで懸念されていた断線の可能性についてワイヤレス化を実現したことにより、信頼性が高まり、ワイヤレスインホイールモータ搭載の電気自動車は突出した運動性能を持つEVとなります。原理的には燃料電池車やハイブリッド車にも搭載が可能です。さらに将来、地上コイル等のインフラ整備が整えば、バッテリに頼らず外部から給電された電気自動車が道路を走る世界も夢ではなくなります。

発表雑誌

ワイヤレスインホイールモータを搭載した電気自動車の実車評価
藤本 博志・山本 岳・佐藤 基・郡司 大輔・居村 岳広
(自動車技術会春季大会 2015. 5. 21  発表予定)

磁界共振結合方式を用いたワイヤレスインホイールモータの特性評価
佐藤 基 山本 岳・居村 岳広・藤本 博志
(自動車技術会春季大会 2015. 5. 21  発表予定)

無線電力伝送の回路解析とワイヤレスインホイールモータの制御への応用
郡司 大輔 居村 岳広・藤本 博志(東京大学)
(自動車技術会春季大会 2015. 5. 20  発表予定)

問い合わせ先

(研究に関する問い合わせ先)
居村 岳広 (Takehiro Imura)
東京大学大学院 新領域創成科学研究科 先端エネルギー工学専攻 助教
〒277-8561 千葉県柏市柏の葉5-1-5 新領域基盤棟 7H1室(POBox 702)
電話番号: 04-7136-3873 / Fax: 04-7136-3847
Eメール: imura@hori.k.u-tokyo.ac.jp

東洋電機製造株式会社 経営企画部
広報・IR・CSR課長 北原 冬雪
電話番号: 03-5202-8122
FAX番号: 03-5202-8147
Eメール: contact@toyodenki.co.jp

日本精工株式会社 広報部
部長 海老澤 斉
電話番号: 03-3779-7050
FAX番号:  03-3779-7431
Eメール:  support@nsk.com

用語解説

(注1)インホイールモータ
 ホイール内部に駆動源(モータ)を配置する技術です。

(注2)インバータ
 直流電圧を任意の周波数で任意の振幅の三相交流電圧を出力するための機器。モータを駆動させるための電源装置です。

(注3)磁界共振結合方式
 ワイヤレス電力伝送の一方法。一次側(送電側)と二次側(受電側)に共振コンデンサを設けて共振状態とすることで、電磁誘導方式に比べて長距離の電力伝送が可能であり、伝送効率も優れています。

(注4)SiC
 ここでは炭化ケイ素(SiC)をさす。SiCは Si の約 10 倍の絶縁破壊電界強度(EC)を持ち、高耐圧・低損失の次世代パワーデバイス材料として期待されています。

(注5)共振コンデンサ
 ここでは、磁界共振結合方式における送信コイルおよび受信コイルに直列に取り付けられるコンデンサのことをさします。

(注6)DCDCコンバータ
 直流電圧を任意の直流電圧に変換するスイッチング電源であり、回生が可能な構成の回路をさします。

(注7)コンバータ
 交流電圧を任意の直流電圧に変換する機器をさします。

(注8)永久磁石同期モータ
 界磁に永久磁石(外部から磁場や電流の供給を受けることなく磁石としての性質を長期にわたって保持する磁石)を使用した同期電動機です。