量子物性科学 岡本博教授研究室
Hiroshi Okamoto
研究内容の紹介
光誘起相転移とは、物質に光を照射することによって、物質の電子構造や結晶構造ががらりと変化する現象です。岡本研究室では、100から7フェムト秒(フェムト秒=10-15秒)という短い時間幅のレーザーパルスを駆使して、光照射によって生じる多彩な超高速相転移の検出と機構解明を行っています。例えば、モット絶縁体である銅酸化物にレーザーパルスを照射すると、電子間クーロン反発により局在していた電子が一斉に動き出して金属に転移します(図1)。 赤外領域の光(電磁場)パルスを使って、物質の電子構造を制御する研究も行っています。図2は、大きな電場振幅ETHzを有する単一周期の電磁波であるテラヘルツパルスを、モット絶縁体に照射したときの金属化の概念図です。この現象では、パルスの電場成分によってバンドが傾き、量子トンネル過程によるキャリア生成をきっかけとして金属化が生じます。図3右は、ETと呼ばれる有機分子からなるモット絶縁体(図3左)にテラヘルツパルスを照射したときに生じる赤外域の吸収の時間変化です。この結果から、金属化のダイナミクスの情報が得られます。最近は、中赤外パルスを固体に照射したときに、その光の振動電場と電子系の相互作用によって生じるフロッケ状態と呼ばれる新しい非平衡定常状態の観測と、それを使った物質制御の研究を進めています(図4)。このフロッケ状態の性質は、サブサイクル分光(光の振動電場に沿った物質の電子状態変化を、その振動周期よりも短い時間幅のパルスに対する光学応答の変化として検出する手法)によって調べることができます。
(図1)
光励起により金属化する銅酸化物
(二次元モット絶縁体)
(図2)
テラヘルツパルスの強電場で引き起こされるモット絶縁体-金属転移
(図3)
有機モット絶縁体であるκ型ET塩の構造(左)とテラヘルツ電場による金属化を示す赤外領域の吸収変化ΔOD(右)
(図4)
中赤外パルスの電場波形に沿った物質の電子状態化を測定するサブサイクル分光(左)と光の振動電場によって生成する光ドレスト・フロッケ状態の概念図(右)
岡本教授からのメッセージ
人との出会い、そして繋がりが成果を生む。
高い目標を持った仲間と協力し、また、ある時は切磋琢磨しながら、これが“自分の発見”だと言える発見をしてください。
私は、有機分子性半導体の光物性物理の研究で本学の博士課程を修了した後、岡崎の化学系の国立研究所で助手を、東北大の磁性半導体のレーザー分光の研究室で講師・助教授を務めました。本学に戻ってからは、様々な周波数と時間幅を持つ“光”を使って、“物質の電子物性を解明し、制御し、応用する”という研究をしています。対象とする物質は、遷移金属酸化物、有機分子性物質、共役ポリマーなど様々です。これらが持つ強相関電子系や低次元電子系の特徴をうまく活用すれば、テラヘルツ(1012Hz)の繰り返し周波数で動作する超高速光スイッチング素子など、従来の半導体技術を越える次世代の光デバイスが実現できる可能性があります。研究の場所を変えて来たことで、いろいろな人に出会えました。コミュニケーションすることで、たくさんの人と繋がり、高め合えたことが、研究にも私自身にもプラスになりました。この30年、光技術の発展は予想以上に速く進んできました。昔は出来ないだろうと思っていた“物質の中の電子やスピン、原子や分子の運動の観測”が、超短パルスレーザーの進歩によって、今は出来るようになっています。本研究室では、多くの先輩が、最先端のレーザー技術を使って世界初の素晴らしい発見をしてきました。不可能だと思わずに、目標は高く持つこと、自分が夢と思えることを持って研究に挑んでください。
キーワード
光誘起相転移 / 強相関系 / 電子格子相互作用 / テラヘルツパルス / 光スイッチ / 光物性 / 遷移金属錯体 / 光誘起吸収 / ソリトン / ハロゲン架橋金属錯体 / 中赤外パルス / Strongly correlated electron systems / フェムト秒レーザー分光 / テラヘルツ分光 / 超高速分光 / 絶縁体金属転移 / モット転移 / 強相関エレクトロニクス / 分子性固体 / 強相関電子系 / 非線形光学応答 / 電子相関 / 励起子 / 光伝導 / ポーラロン / 中赤外光 / テラヘルツ光 / 非線形光学 / 後ほど / 電場誘起相転移 / 赤外分光 / フェルト秒レーザー分光 / Magnetism / Optical switching / Correlated electronics / Optical properties in solids / 電荷移動吸収 / 有機電荷移動錯体 / スイッチング現象 / 磁性 / Third harmonic generation / Transition metal oxides / Copper oxides / Third order nonlinear susceptibility / Nonlinear optical effect / 非線形光学定数 / 強相関係 / 三次の非線形感受 / 第三高調波発生 / 銅酸化物 / 三次の非線形感受率 / 非線形光学効果 / 有機強誘電体 / テラヘルツ電磁波 / 誘電体物性 / フェムト秒レーザー / レーザー分光 / カーボンナノチューブ / レーザー光電子分光 / 分子性導体 / 電荷移動錯体 / ポンププローブ分光 / 分子性結晶 / 相転移 / 非線型光学定数 / SDW / CDW / ハロゲン架橋遷移金属錯体 / スピン帯磁率 / 磁気光学効果 / 疑一次元ハロゲン架橋金属錯体 / 偏光反射スペクトル / X線光電子分光 / 一次元ハイゼンベルグスピン系 / ハロゲン架橋Ni錯体 / 光電子分光
プロフィール
1983年 東京大学工学部物理工学科卒
1985年 東京大学大学院工学系研究科修士課程修了
1988年 東京大学大学院工学系研究科博士課程修了 (工学博士)
1988年 岡崎国立共同研究機構分子科学研究所助手
1992年 東北大学科学計測研究所講師
1995年 東北大学科学計測研究所助教授
1998年 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻助教授
1999年 東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻助教授
2005年 東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻教授
郭 紫荊 さん
光は物性を調べるのに非常に有力な手段となります。岡本研では、最先端のレーザー分光装置を使った研究を自分の手で進めることができます。岡本先生は、いつも優しく、いろいろ気遣って下さり、話しやすくて頼もしい先生です。研究室の先輩たちも皆さん優秀で、一緒に楽しく研究をしていく中で、多くの事を学ばせて頂いています。岡本研では、実験の進め方から発表の準備まで、全面的に丁寧にご指導いただけます。その手厚いサポートを受けながら研究を進め、私自身も成長を感じています。物質系専攻では、幅広い領域の研究交流が行われており、共同研究が盛んです。柏キャンパスは、気軽に都心にアクセスできる距離にありながら、落ち着いて研究できる環境だと思います。最先端の研究の一角を自ら担うことによって、研究する面白味を感じられるでしょう。
APPLIED PHYSICS
新しい光物性・光機能性を開拓する
277-8561
千葉県柏市柏の葉5-1-5
東京大学大学院新領域創成科学研究科
物質系専攻
岡本博教授研究室
04-7136-3771(岡本)
okamotoh@k.u-tokyo.ac.jp
物質系専攻の目標
物質系専攻の目標は、未開拓な自由度を操ることができる舞台=“新物質”を開拓すること、その舞台から生み出される未知の現象を探索して優れた機能を引き出すこと、 また、その機構を解明すること、そして、それらの現象・機能の応用分野を開拓することで人類社会の発展に貢献することにあります。
物質系専攻
〒277-8561
千葉県柏市柏の葉5-1-5
東京大学柏キャンパス
新領域創成科学研究科
Mail:ams-office(at)ams.k.u-tokyo.ac.jp
(at) を @ にしてください。