井 通暁
(いのもと みちあき/教授/基盤科学研究系)
先端エネルギー工学専攻/核融合エネルギー工学講座/プラズマ物理、核融合工学
略歴
1995年3月東京大学工学部電気工学科卒業
2000年3月東京大学大学院工学系研究科博士課程修了(博士(工学))
2000年4月大阪大学大学院工学研究科助手
2003年4月大阪大学大学院工学研究科講師
2008年4月東京大学大学院新領域創成科学研究科准教授
2021年1月より現職
教育活動
大学院:先進プラズマ理工学基礎、先進プラズマ理工学、核融合実践演習
研究活動
荷電粒子(電子とイオン)の集合体であるプラズマは、通常の流体としての振る舞いに加えて電磁気的相互作用を強く含んでおり、複雑で興味深い挙動を示すことが知られています。高温プラズマを効率よく保持しうる核融合炉を実現するためには、このようなプラズマの複雑な挙動を解き明かし、その本質に迫ることが不可欠です。本研究室では小さい磁場を用いて高温のプラズマを閉じ込める(高ベータ)ことを目標として磁場反転配位や球状トカマクについての実験を中心とした研究を行っています。高ベータプラズマでは電子とイオンとが異なった振る舞いをするため、特にプラズマの流れの影響が顕著となるような自律性の高い系となり、自己組織化や緩和といった現象が強く発現します。このため外部からの制御性が低くなり、低ベータプラズマとは異なったアプローチが必要となります。
■ 磁場反転配位の高性能化と応用
高ベータを極限まで追求した磁場閉じ込め配位が磁場反転配位(FRC)とよばれるもので、100%に近い磁場利用効率を有する反面、プラズマを長時間維持することが困難とされてきました。近年になって回転磁場や変流器コイルを用いた電流維持、低周波波動や中性粒子ビーム入射による加熱等が試みられています。現段階での性能は決して優れているとはいえませんが、本質的に高い潜在能力を有しており、うまくいけば究極的な核融合炉心プラズマとなりえます。
■ 球状トカマクの高ベータ化
磁場反転配位に次いで高いベータ値を達成している磁場配位が球状トカマク(ST)とよばれるもので、40%程度の磁場利用効率が達成されています。プラズマを閉じ込めておく能力が磁場反転配位よりも高く、現実的な手法であるといえます。この球状トカマクと前述の磁場反転配位とは、歴史的には全く異なった装置・実験手法として発達してきたのですが、近年になって両者の中間的な領域の存在が指摘されており、両者は全く別個のものではなく連続的につながるような概念なのかもしれません。両者を統一的に取り扱うことによって、超高ベータ領域に新たな可能性を探求しています。
■ 高ベータプラズマへの中性粒子ビーム加熱の適用
磁場反転配位や球状トカマクにおいてプラズマを加熱する有力な手法が中性粒子ビームです。これは、プラズマ中のイオンよりも高いエネルギーを持つ原子ビームを入射することによってプラズマを加熱するもので、高ベータプラズマにおいて不可欠な技術です。特に磁場反転配位研究においては、ビームによる準定常化実現は非常に大きなステップとなります。磁場反転配位ではプラズマ内の磁場が小さいため、効率的な中性粒子ビーム加熱のためには補足磁束の大きなプラズマを得た上で最適なビーム入射を行う必要があり、加熱効果の予測のための粒子軌道計算を実施し、実験による検証を行います。
文献
1) M. Inomoto, et al. : Control of electron acceleration process during merging start-up of spherical tokamak, Nucl. Fusion, 61, in press (2021).
2) M. Inomoto, et al. : Effects of reconnection downstream conditions on electron parallel acceleration during the merging start-up of a spherical tokamak, Nucl. Fusion 59, 086040, (2019).
3) M. Inomoto, et al. : Centre-solenoid-free merging start-up of spherical tokamak plasmas in UTST, Nucl. Fusion 55, 033013 (2015).
その他
日本物理学会、電気学会、プラズマ・核融合学会、米国物理学会各会員。
将来計画
球状トカマクや磁場反転配位といった高ベータ閉じ込め配位の実験研究を通して、両者を包括的に取り扱うことのできる概念体系を構築し、高性能核融合炉心を実現しうる新たな領域を開拓することが本研究室の目的となります。
教員からのメッセージ
プラズマの実験研究は未知なる事象への挑戦であるといえます。当初の思惑通りに研究が進展することはまれであり、実験を行いながら現象を解釈し、仮説を立て、それを実証するために新たな実験を計画するというプロセスを経てひとつの知見がもたらされます。「何かを不思議に感じたらそれを解明する」という科学の本質に近い環境で研究を行ってみたいという皆様を歓迎します。