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【開催報告】研究倫理ワークショップ第2回「人間はどこにいく:拡張する身体の現在と未来」を開催しました

投稿日:2022/02/07
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科学技術の進歩が劇的に加速する現代において、「倫理的である」とはどういうことなのでしょうか。研究者にとっての「倫理」の世界を紐解く新領域創成科学研究科「想像×科学×倫理」研究倫理ワークショップ。3回シリーズの第2回が、2022114日(金)にオンライン開催されました。

2回目のテーマは「人間はどこにいく:拡張する身体の現在と未来」。新領域で人間の感覚の拡張を試みている割澤伸一教授と篠田裕之教授、リスクガバナンスを専門とする東京大学公共政策大学院の松尾真紀子特任准教授の3人の対話が、福永真弓准教授のファシリテーションによって行われました。

左より:篠田裕之教授、割澤伸一教授、松尾真紀子特任准教授、福永真弓准教授

約2時間に及んだ対話の始まりは、「バイオセンシングと触覚刺激による快・不快のコントロールをAIに任せると、人間の人格形成に大きな影響を及ぼすかもしれない」という大胆な指摘からでした。それに対するリスクガバナンスの必要性が語られ、技術開発における自由のあり方など研究倫理の核心に迫る対話が展開されました。人間の身体の「拡張」と、それに対する「倫理」の最前線が垣間見える、たいへん有意義な時間となりました。

ー 「触覚の再現」は人格形成をコントロールできる? ー

篠田教授の研究テーマは「触覚の再現」。リアルなモノが存在しなくとも、遠隔からの超音波により皮膚の触覚を刺激することで、あたかもそこにモノがあるかのように感じる技術です。篠田教授はこの技術が内包する可能性として、「この技術を使えば、触覚刺激を通じて快感と不快感のどちらも与えることができます。これを意識的にプログラムすれば、かなりの部分で人間をコントロールできることになるし、悪意をもって行えば人格形成にも悪影響を与えかねない」と指摘。福永准教授も「今後AIが発展すると、誰(あるいは何)がコントロール権を握るかのか完全にブラックボックスになってしまう」と懸念を示すと、リスクガバナンスが専門の松尾特任准教授は、「だからこそ、技術の発展は、社会や環境に与える影響をあらかじめ多様な主体間で予測し、対応を検討することが大切」と提言しました。

今回もグラフィックカタリストの松本花澄氏と佐久間彩記氏にご参加いただき、グラフィックレコーディングとともに議論を進めました。

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スタンディングで謎の棒を持つ登壇者

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左から:松本花澄氏、佐久間彩記氏

ー 多様な意見を集めて社会に還元できる研究を進める ー

生体情報センシング技術を研究する割澤教授は、すでに私たちはAIによってコントロールされていると言います。「EC(電子商取引)サイトなどで提示されるオススメなどはまさにそれで、我々はすでにかなりの部分でAIに飼い慣らされているといっても過言ではありません。私の研究ではセンサーを使ってリアルタイムで感情の情報収集をしていますが、やっていることの本質は近いものがあります。人間の感情を対象にしているので、自分が嫌だと思ったら止められるかどうかも重要なポイントですが、技術的に可能かどうか」。

これについて篠田教授は「そこで得られるデータと僕の研究分野である触覚再現技術が組み合わされば、人間のかなりの部分をコントロールできてしまうかもしれない」と危惧しつつも、研究そのものの規制については「この技術が最終的にどこにたどり着くかは分かりませんが、個人的には人類にとって必ずプラスに働くと考えています。起こり得る事態に警戒はしつつも、根っこの部分では自由でありたい」と語ります。割澤教授も「研究に制約はないと信じています。その都度、対話や価値観の共有は必要ですが、きっと社会に還元できると思っています」と、ともに研究者としての意志を示しました。

松尾特任准教授は、「ECサイトの例も含め、自由意志で選択しているつもりでもそうではないことはあり、その事実を意識して技術と付き合う必要がある。様々な側面を考慮して、技術の推進と対応をセットで行うことこそが、適切な技術の社会導入につながる。また、自然科学系の研究者は、研究の萌芽段階から一般人も含め違ったバックグラウンドを持つ人たちの意見にも耳を傾け、可能であればそれを研究にフィードバックしていくこと、そして自らの研究が持つ社会影響を想像したりそれを語り合える社会科学系研究者とのルートを持っておくことが非常に重要です。」と語りました。

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登壇者たちはグラフィックを指しながら議論を進めました。謎の棒はそのためのものでした!

ー 身体の拡張が開く未来を想像する ー

AIを駆使した「身体の拡張」は、まさに発展中の分野といえます。我々はそれにどう向き合い、受け入れていけばいいのでしょうか。もはや研究者個人に任せるのではなく、技術を享受する私たちユーザーの責任でもあるように感じます。最新技術の実装と、それがもたらす環境変化について、まずは「想像」するところから始めたいです。

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グラフィックレコーディングの完成版は研究倫理ワークショップウェブサイトにてご覧ください。
https://rinri.edu.k.u-tokyo.ac.jp/%E7%AC%AC2%E5%9B%9E

ー 出演者情報 ー

割澤教授は、生体情報センシング技術の研究開発を行っています。人間と環境をセンシングすることで得られたデータを健康管理や心のケア、新しい産業システムの創出などに反映することで心豊かな生活環境の実現を試みています。

篠田教授は、人間の触覚を活用する新しい情報システムの研究を行っています。超音波を利用した触覚の再現など、感覚をフィードバックすることで人間の行動・生活を支援することを目指しています。

松尾特任准教授の専門はリスクガバナンス。東京大学公共政策大学院(STIG:Science, Technology, and Innovation Governance)にて、テクノロジーアセスメント、科学技術イノベーション政策、リスクガバナンスなど科学技術と社会におけるガバナンスにかかわる研究および教育に取り組んでいます。

ー 次回のテーマは都市 ー

第3回のテーマは「なめらかな都市、ざらつく都市:都市ゲノムとしてのデータと未来」です。データを人間や都市からとる、つくる、うめこむ研究を行う研究者3名が、データが形成する社会と人間の新しい形について対話します。

日時:2022年02月14日(月)16:30~18:00

登壇者:出口敦 教授(都市計画・都市デザイン学)

    瀬崎薫 教授(通信・ネットワーク工学)

    杉山将 教授(機械学習)

コーディネータ:福永真弓 准教授(環境倫理・環境社会学)

詳細、お申し込みはこちら
https://rinri.edu.k.u-tokyo.ac.jp/%E7%AC%AC3%E5%9B%9E

(取材執筆:蘭 真由子)

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