研究成果

2人乗り超小型電気自動車の公道走行認定を受けました

投稿日:2014/05/23
  • ニュース
  • 研究成果
  • 記者発表

1.発表者

東京大学大学院 新領域創成科学研究科 人間環境学専攻 教授 鎌田 実
同 先端エネルギー工学専攻 特任研究員 久保 登

 

2.発表のポイント

(1)「東京大学・柏市超小型モビリティ協議会」(会長・鎌田実)は、このたび、高齢者の円滑な外出手段となりうる2人乗りの超小型電気自動車の公道走行認定(注1)を国土交通省から受けました。
(2)本件は、すでに「原付ミニカー」として公道を走行していた車両を、大学が改造し、本認定を受けた例として、日本初のものです。
(3)今回の認定は、超高齢社会において必須である高齢者の円滑な移動手段の開発に役立ちます。今後、毎日の利用に便利に使えるか、安全性に問題がないかなどを引き続き調査検討する予定です。

 

3.発表概要

 超小型電気自動車などの新しい移動手段は、小型・軽量で安全性の高いことが要求され、家庭で充電ができる利点もあります。従来から、第一種原動機付自転車として扱われる「原付ミニカー」というカテゴリーの電動車両が市販車としても存在していますが、「原付ミニカー」は1人乗りに限られ、家族の送迎や夫婦の外出用途などでの実用性に欠ける場合もありました。
 東京大学大学院新領域創成科学研究科 鎌田実 教授が会長を務める「東京大学・柏市超小型モビリティ協議会」では、このたび、高齢者の円滑な外出手段となりうる2人乗りの超小型電気自動車の公道走行認定を国土交通省から受けました。この認定は、本協議会が国土交通省「超小型モビリティ認定制度(注1)」に沿って申請したもので、本学大学院 新領域創成科学研究科 人間環境学専攻生活支援工学分野 鎌田・小竹(しの)・二瓶(にへい)研究室、千葉県柏市、本学「明るい低炭素社会の実現に向けた都市変革プログラム:(代表・大学院 新領域創成科学研究科 飛原英治教授; 注2)」との協同作業の成果です。本認定においては、すでに「原付ミニカー」として公道を走行していた車両を、大学が改造し、認定を受けたという点では日本初のものです。なお、本事業は同プログラムおよび科学研究費補助金基盤研究(B)20300194「高齢運転者の運転断念に向けての評価法と社会的受容性に関する研究」の一環として実施されました
 本協議会は、今後、毎日の利用に便利に使えるか、安全性に問題がないかなどを引き続き調査検討する予定です。

<用語解説>

(注1)国土交通省・超小型モビリティ認定制度 http://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_fr1_000043.html
(注2)同プログラムHP http://low-carbon.k.u-tokyo.ac.jp/
 

4.発表内容

 このような新しい移動手段は、基本的に、小型・軽量で安全性の高いことが要求され、家庭で充電ができる点も利点となります。従来から、市販車としても第一種原動機付自転車として扱われる「原付ミニカー」という車両が存在していますが、これは1人乗りに限られ、家族送迎や夫婦外出などができず、自動車の持つ実用性に欠ける場合がありました。このような点を改善するために、市販の電気式原付ミニカー(トヨタグループ・トヨタ車体(株)製「コムス」2011年型・図2)に後部座席を増設し、今回の公道走行認定を受けたものです。
 今回の認定は、走行地域を千葉県柏市に限定した上で、軽自動車検査協会にて軽自動車としての検査を受けました。今後、地域住民の方の試用、大学における展示・試走などの社会実験に用いる予定です。


図1 今回認定を受けた車両

4-1.認定車両(図1
 認定車両は、前後2人乗りで、車体幅が非常に狭いので、駐車や狭い道路などでの取り回しが楽ですが、一回の充電で走れる距離が短い、充電時間が長い、衝突した時の不安などの課題点もあります。この認定を受けた車両および、市販の原付ミニカー(1人乗り)の車両も用いて、このような小型の電気自動車が毎日の利用に便利に使えるか、安全性に問題がないかなどを引き続き調査検討する予定です。

 協議会が今回の認定を受けるまでに、東京大学大学院新領域創成科学研究科では、以下のような社会実験を行っています。

 

4-2.超小型電気自動車を用いた社会実験
 本格的な自動車社会である日本では、現状では自動車は主に個人の移動手段として用いられています。個人の移動においては大部分が1人乗車で使われ、4~5人乗りの自動車の利用形態としては非効率と言えます。今後の超高齢・少子化社会において、自動車利用を前提とした社会施設がさらに増えれば、今後も「自動車=1人乗り」という状況が進むことになります。これにより、エネルギー資源の浪費やCO2排出の増加、道路・駐車場等のインフラストラクチャーの負担増などが予想されます。そのような状況では、1~2人乗車に適した超小型電気自動車等は、省資源、CO2削減などと同時に、外出に制約がある高齢者の外出促進にも効果が大きいと考えられます。
 また、自動車は「送迎」という大きな役割を持っており、現状の原付ミニカーのような1人乗り限定の車両では、実際には実用性が低下します。このため、上記の2人乗り車両に加えて、1人乗りの超小型モビリティも含めて、さまざまな形態の車両を試作し、その得失を踏まえて検討を行っています。

 2人乗りの超小型車では、通常の自動車のように横に2人乗るものと、縦に2人乗るもの(タンデム式)の2通りが存在しますが、タンデム式は車幅を1m程度に狭くできるので、以下のようないくつかの利点があります。

(1) 狭い場所での走行・取り回しが容易で、道路脇へ寄せる、普通の駐車スペースへ2~4台停める、などが可能。
(2) 1台駐車の場合、車体両側に大きな余裕があり、通常の駐車スペースを車いすスペースとして利用することができる。
(3) 軽トラックが入れないような狭い不整地での作業が有利である。一般に超小型電気自動車は車重が軽いために、車幅の狭さも相まって、軽トラックでも入れないような畑の畦道や山林内などの軟弱路面や狭小地に進入できる。これは、高齢化が進む農林業に対して、非常に重要な支援策になりうる。

 そこで、東京大学では、上記のような「タンデム式(車幅の狭い車両)による利点」を狙って、以下に示すようないくつかの試作車両を製作し、一部を実際に試用して得失などを検討しました。

図2 トヨタ車体・コムス(ロングタイプ)

 今回試作した車両は、すべてトヨタ車体製の電気式原付ミニカー「コムス(ロングタイプ)」をベース車両としたものです。
図2・当該車両の主要諸元は以下の通り)
全長×全幅×全高(m):2.4×1.0×1.6、重量:310kg、 走行用バッテリー:72V×66Ah、 充電:家庭用AC100V・ゼロ~満充電まで8h程度、 一回充電走行距離:30~40km程度
 

(1)山コムス(図3
 里山(平地林)内の不整地作業用に、タイヤをオフロードタイプとし、荷台カゴを設けた車両です。非常に軟弱な地面(腐葉土等)を走るので、前輪に対して後輪はさらに幅広のタイヤとしてあります。


図3 山コムス

 

(2)里コムス(図4
 これは、郊外住宅地の催し物や空き地整備などに使えるように、荷台カゴとオフロードタイヤを装備したものです。なお、山コムス・里コムスには、駐車時にバッテリーの自然放電を補うために、屋根上に太陽電池パネルを搭載してあります。この電池の出力はカタログ値で23Wなので、実際の充電電力(1000W以上)に比べると微々たるものですが、数日以上屋外に駐車している場合は、実際に多少の充電効果も見られます。

図4 里コムス

 

(3)トマコムス(図5
 これは、畑地でトマトを収穫する車両です。通常サイズのオフロードタイヤを装着し、オリジナル車両の荷台デッキを生かして、滑り止めマットを敷き、トマトカゴが安定するようにしてあります。

図5 トマコムス

 

(4)ママコムス(図6
 これは、国内企業がデモ用として製作した車両を譲り受け、後席に子供用の座席を2個取り付けたものです。本車両は現在は構内展示専用ですが、超小型モビリティ認定には、前席大人1人、後席に子供2人(チャイルドシート使用)の形式もあります。このような車両が普及すれば、現在は特例的に認められている自転車の母子3人乗りを移行させることができると考えています。


図6 ママコムス(大人1人、子供2人の3人乗り)


 これらの車両を試用し検討した結果、超小型電気自動車は、郊外、畑地、里山など、都会ではない地域で大変に役立つことが分かってきました。この観点から、今後さらに安全面や実用化に向けた時の問題点なども検討しながら、超高齢社会に便利な移動手段を模索する予定です。

問い合わせ先

東京大学大学院 新領域創成科学研究科 特任研究員 久保 登

kubo@hori.k.u-tokyo.ac.jp  電話04-7136-4667   FAX 04-7136-466