耐熱材料のコーティング材密着性向上 ―添加元素の役割を初めて明らかに―
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東京大学大学院新領域創成科学研究科
発表のポイント
◆耐熱材料に被覆するコーティング材の密着性に対する添加元素の役割を明らかにしました。
◆界面エネルギーを大きく下げる元素が密着性を向上させることが明らかになりました。
◆耐熱材料コーティング材の剥離防止と長寿命化の効果が期待されます。
元素添加による界面エネルギーの変化
概要
東京大学大学院新領域創成科学研究科の根上将大 大学院生(博士課程、兼:川崎重工業株式会社)、吉野哲生 大学院生(修士課程、研究当時)、御手洗容子 教授、物質・材料研究機構の佐原亮二 グループリーダー、川崎重工業株式会社の森橋遼 氏による研究グループは、ニッケル(Ni)基超合金(注1)に被覆するボンドコート(注2)とその上に生成する酸化物(TGO、注3)の密着性向上のメカニズムを第一原理計算(注4)により明らかにしました。
第3族(注5)、第4族元素を添加した時のボンドコートと酸化物の界面エネルギーを系統的に計算し、第3族元素よりも第4族元素が界面エネルギーをより効果的に低下し、さらに第14族元素であるケイ素(Si)が最も界面エネルギーを低下させることを初めて明らかにしました。さらに、界面エネルギーを低下させる元素が密着性を向上させることが判明しました。
今後、密着性向上のメカニズムを初めて明らかにしたことで、コーティング材(注6)の長寿命化に貢献することが期待されます。
発表内容
ニッケル(Ni)基超合金は、ジェットエンジンの最も温度が高いタービンに使われています。融点よりも高い燃焼ガスの元で使われるため耐熱コーティングが必要になります。耐熱コーティングはボンドコートとトップコート(注6)の複層ですが、長時間高温で使う間に、ボンドコートとトップコートの間に酸化物(TGO)を生成します。ボンドコートと酸化物の間にき裂が入ることでコーティング材の剥離を引き起こすため、密着性向上のために、ハフニウム(Hf)やケイ素(Si)を添加します。これによりコーティング材の寿命が伸びることは知られていましたが、その理由については明らかではありませんでした。
本研究では、添加元素がボンドコートと酸化物の界面に及ぼす影響を明らかにするために、第一原理計算を用いて、界面エネルギーを計算しました。ボンドコート(NiCoCrAl)の代表元素であるNiの(111)面とTGOであるAl2O3の(0001)面を図1に示すように、重ね合わせ、界面に添加元素を配置することで界面エネルギーを計算しました。
図1:NiとAl2O3の界面モデル
図2に示すように、第4族元素は第3族元素よりも界面エネルギーを低下させ、Siはさらに界面エネルギーを低下させることがわかりました。
図2:元素添加による界面エネルギーの変化
元素添加による界面エネルギはSi、第4族元素、第3族元素の順に低下し、同じ族の元素の中では電気陰性度が小さいものほど界面エネルギーを低下させる。
また、同じ族の元素の中では電気陰性度が小さい元素ほど界面エネルギーを低下させることがわかりました。図3に示す電荷密度差(注7)は、第4族元素のHf、ジルコニウム(Zr)とSiがNiと強く結合(赤い色)していることが示しており、界面エネルギーを低下させる(安定化する)元素がNiと強く結合することにより、密着性を向上させていることを初めて明らかにしました。
図3:添加元素による電荷密度分布と電荷密度差
図4の繰り返し酸化実験結果に示すように、イットリウム(Y)単独添加よりもY、Hf、Si同時添加により、剥離までの繰り返し数が多くなっており、Hf、Si添加がNiと強く結合するという計算結果から、実験の結果を説明することができます。
図4:NiCoCrAlの繰り返し酸化へのY添加とY, Hf, Si添加効果の比較
これまで経験的に添加元素を選択していましたが、これからは界面エネルギーを低下させる元素をあらかじめ計算することで、添加元素を選択することができるようになりました。本研究の成果は、コーティング材長寿命化のための設計指針を明確にすることで、コーティング材の長寿命化に貢献することが期待されます。
発表者・研究者等情報
東京大学大学院新領域創成科学研究科
根上 将大 大学院生(博士課程)
兼:川崎重工業株式会社
吉野 哲生 大学院生(修士課程、研究当時)
御手洗 容子 教授
物質・材料研究機構
佐原 亮二 グループリーダー
川崎重工業株式会社科
森橋 遼 課長
論文情報
雑誌名: Corrosion Science
題 名:Effect of reactive elements in MCrAlX bond coat for durability improvement of thermal barrier coatings
著者名: Masahiro Negami, Ryo Morihashi, Tessei Yoshino, Ryoji Sahara, Yoko Yamabe-Mitarai*
DOI: 10.1016/j.corsci.2024.112329
URL: https://doi.org/10.1016/j.corsci.2024.112329
用語解説
(注1)ニッケル(Ni)基超合金
ジェットエンジンのタービンに使われる耐熱材料
(注2)ボンドコート
Ni基超合金の表面の被覆される。MCrAlY(MはNiやコバルト(Co)など)がよく使われる。
(注3)酸化物(TGO:Thermally Grown Oxide)
ボンドコートとトップコートの間に生成する酸化物。主に、Al2O3(アルミナ)が生成する。
(注4)第一原理計算
量子力学に基づいた、実験結果や経験的なパラメータを用いない計算手法。
(注5)族
元素の性質は周期的に変化するが、周期表では原子を原子番号順に並べ、性質の類似した元素が縦に並ぶように配列している。性質の類似した元素が縦に並ぶ列を族と呼ぶ。
(注6)コーティング
Ni基超合金の上に耐熱性向上のために被覆する被膜。Ni基超合金の上にボンドコートを被覆し、さらにその上に、ジルコニアなどのセラミックをトップコートとして被覆する。
(注7)電荷密度差
添加元素を入れない状態の電荷密度と添加元素を入れた状態の電荷密度の差
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